2011年9月30日金曜日

Tramping Track-トレッキングルートで見る環境政策


NZの山道、この写真の中にNZの観光政策を象徴する人工物が隠されています。さて…


photo: Yoshio
 答えをご紹介する前に…

NZにある全14の国立公園の一つカフランギナショナルパークでのトランピング実習。

photo: Yoshio

カフランギNPはNZ南島の北西に位置していて、全面積は45万ヘクタールと沖縄県全域の2倍、国立公園としてもNZで2番目の広さをほこっています。古代に堆積した海底が隆起して造形された山々は、大理石の荒々しい岩肌、絶壁、洞窟から熱帯雨林まで、バラエティーに富んだ景観を楽しむことができます。

photo: Yoshio

総延長570キロにも及ぶトランピング(トレッキング、登山)ルートが人気で、毎年、国内外から多くの観光客がトランピングを楽しむために訪れています。

私たちが今回歩いたのはCobb Valleyと呼ばれるルート。

ネルソン周辺では数少ないダムの一つ、Cobb Damに注ぐ源流の谷沿いを歩きます。
トラックは比較的平たんで勾配も緩やか、初心者にもお薦めの軽度なトランピングルートの一つです。

photo: Yoshio
さて、NZ観光における国際観光客の旅行目的のトップとなっているトランピング
国立公園だけでなく、トランピングトラックは町外れの小さな丘まで、まさに国中に張り巡らされていて、NZ国民にとっても最もポピュラーなアクティビティの一つです。

そして実際に歩くトランピングのトラックですが、その整備のあり方はNZの環境保護の精神や観光政策を象徴していると言えるでしょう。

NZのトランピングの最大の楽しみは、なんといっても壮大な自然の中にトリップしているという感覚そのもの。

photo: Yoshio
したがって、トランピングルートでは建造物や人工物、人の手が加わったものが容易に視界に入らないよう、可能な限り排除されています。しかし、トランピングの安全性や生態系の維持のために、どうしても人の手を加えないといけない場合もあります。そうした場面におけるNZの配慮の一例をちょっとご紹介します。

例えば冒頭でも示した下の写真ですが、一見すると人工物の全くない自然のトラックに見えますが、実はこの中に人工物はしっかりと設置されています。

photo: Yoshio

もう少し近づくと、こんな感じです。


photo: Yoshio


これでも、ただちょっと大きな石があるだけ、と思いますが…
実はその石の下を覗きこむと…


photo: Yoshio

小さな水路を維持するため、プラスチック製のパイプが設置されています。

こちらは比較的新しく設置されたもの。

photo: Yoshio
こうして設置されたものは、年月がたち草木に覆われると、ほぼ完全に自然の一部となり、下の写真のように、発見するのは容易ではなくなります。

photo: Yoshio
このように、自然を楽しむトランピングルートでは、自然の景観を壊さないよう、様々な細かい工夫が凝らされているのです。

非常に丁寧に、意地悪く言えば「巧妙に」人工物が隠されています。

トラックには、その他にも人の手が加えられた場所があります。

photo: Yoshio

photo: Yoshio
上の写真は、いずれも湿地帯で足場が悪かったり排水路が必要な場所で、大きな石や土を使って整備しています。

それなりに「人が手を加えたものであろう」と推測できるものもありますが、きれいに自然に溶け込んでいます。

幅の広い川を横断するトラックには橋が設置されています。

photo: Yoshio
自然の雰囲気を壊さないデザインや色使いもうかがえますが、安全性と景観を維持するための工夫も凝らされています。

photo: Yoshio
人の目に見える場所はほとんど自然の木で作られています。
しかし、人の目に付きにくい橋の下を覗きこむと…

photo: Yoshio
肝心な場所はしっかりとで作られています。

これらのトラックは、いずれも国立公園内。
もちろん車両でのアクセスが不可能な場所
トランピングルートを、少なくとも3~4時間以上歩かないと到達できない場所です。

中には、何日も歩かないと到達できないような山深いトラックでも、このような配慮がなされています。

NZでこれらトランピングトラックを管理するのは、これまでにも何度かご紹介した国の機関DOCDepartment of Conservation)。コンクリートなどでがっちりと固定するわけではないので、当然定期的な維持管理が必要となります。近い距離なら職員が歩いて管理することも可能でしょうが、遠い距離へは、下のようにヘリコプターを使って行うことになります。

photo: Yoshio
徹底的な景観の維持のためにかけられる、膨大な手間と労力

ここまで丁寧に維持された「自然」の道には
不思議と人が捨てたゴミも見られません。

NZのトランピングトラックのゴミのなさには本当に驚かされます。

管理する側、つまり招く側と、招かれる観光客双方の、景観の維持にかける思いが一つになっているように感じます。




2011年9月19日月曜日

Beach Rubbish-漂着ごみ

NZの海や海岸は、美しい山や氷河と並んで、多くの観光客を惹きつけている大切な自然の一つです。

                                                                                                           photo: Yoshio
 では沖縄の海とNZのどちらがきれいかと言われると、ちょっと返答に困ってしまいます。

沖縄の海の特徴は、その透明度や鮮やかなコバルトブルーそして美しいサンゴ礁など。

一方NZの海も、透明度はすばらしいです。しかし海の色は、沖縄のようなブルーが見られるところもありますが、シーカヤックが国内で最もポピュラーな南島のエイベルタスマン国立公園周辺を含め、もう少し深く濃い緑色をしているのが印象的です。水深の浅い場所ではシーカヤックから海底が見下ろせますが、サンゴ礁は見られません。大きな岩などが時おり黒く見えるだけです。

photo: Yoshio

そんな海岸線ですが、沖縄ではよく漂着ゴミが問題となります。
私ももちろん、個人的にも沖縄の海岸で多くの漂着ゴミを目にしましたし、ニュースとして取材したことがあります。とても残念なことですよね。

その点、NZの海岸の良いところは、こうした漂着ゴミがないことです
一部都心部の港などを除き、NZの延々と続く海岸線に漂着ゴミは本当にありません

photo: Yoshio
何度か真剣に探してみたこともありますが、驚くほど皆無です。

海岸に打ち上げられているのは、木や枝など、どれも自然のものばかり
「海岸に漂着した人工物」というと唯一、伐採された木ぐらいでしょうか。
日本や沖縄の海岸で見られるプラスティックの類は全く見られません

これは、とてもうらやましいことです。

日本も沖縄も、モラルや社会のルールして、海にゴミをポイポイ捨てているわけではありませんよね。沖縄の海岸ではビーチクリーン活動も活発ですし、多くの人が意識的に、ゴミのない海岸のために努力をされていると思います。


photo: Yoshio

でも、漂着ゴミは一部地域や一国だけの努力ではどうしようもできない問題です

NZは、その周辺を極めて広い海域に囲まれています。
一番近いオーストラリアでも、2000キロ以上離れています。
数百キロから1000キロ以内に、巨大な大陸が迫る日本とは環境的に大きな違いがあります。

でもこの地理環境は、もちろん変えることはできません。

どうしたら、沖縄でゴミのない海岸線を維持できるのか。
難しい問題ですが、様々なアプローチで地道な努力を続けていくしかないのでしょう。


photo: Yoshio

ゴミのない海岸は素敵です。

それだけで、もう何もいらない、と言えるくらい気持ちのいいものです。
それだけで、都会から遮断された自然の中にエスケープしていると、心から実感できます。
それだけで、立派な観光資源です。

NZの海岸は、きっと太古の昔から変わらない、こうした景観を維持してきたんだろうと思います。

こうした場所では、ふとポケットから落としてしまった自分のゴミも、拾わなければと思ってしまいます。


photo: Yoshio

沖縄の海も、100年前、200年前、1000年前はきっとこうだったんだろうと思います。

沖縄でも、ゴミのない海、ぜひいつか絶対に取り戻したいですね。




2011年9月16日金曜日

Adventure Guiding

今週は、Marlborogh Soundsでのシーカヤック。



photo:Yoshi
 今回のトリップは学校のカリキュラム中のAdventure Guidingの試験の一環で、2泊3日のNZでのシーカヤックツアーを、企画からガイディングまで、全て実際に自分たちで行うというもの。いわば一年間のコースの最終試験で、客役が同じコースの学生たちとはいえ、なかなか大変でした。

Marlborogh Soundsでのシーカヤックは今回が3回目。
しかし、今回私たちがトリップを計画したのは初めてのエリア。

トリップの計画、パンフレット作りから始まり、ようやくトリップ!となりましたが、トリップ中の強い風が予想されたため、ルートは代替案に変更。こうした悪天候時の代替案やガイディングスキルも試験の採点基準となります。

結局、出発はMarlborogh Soundsの東側にある、Duncan Bay

風だけでなく雨も予想されたため、2泊ともエリア内にあるMatai Hut(山小屋)に泊まるツアーとなりました。


photo:Yoshi
今回のツアーを企画、ガイドしたのは、私を含めて3人のグループ。
私がガイドを担当するのは3日目

1日目、2日目と無難に終わり、ようやく私がガイドを行う3日目。

しかし天気予報は、この日30~35ノットの強い北風を予想
時速にすると50~60キロ程度の、かなり強烈な風です。

最悪の自体も想定しながら朝を迎えましたが、朝の海は極めて穏やか。
風も波もなく、湖のような静けさ。


photo:Yoshi

そのため、朝の1時間程度は、北向きのパドリングも可能と判断し、荷物をたたみHutを出発した一向は、北側にある小さな無人島を巡りながらのパドリング。

しかし、予報通り、パドリングを開始して1時間程度で、徐々に波、風が騒ぎ始めました。

北側にある島々の遊覧を終えて、後はひたすら南方向にあるDuncan Bayに戻るだけ。



まさにこの写真の10分後、天気は急変…
photo:Yoshi
 北風にどんなに押されても、あとは風、波に乗るだけ…へっちゃら…、と思ったのは甘かった…

天候はまさに、わずか10分程度の間に急変
波、うねりが出始め、海面を猛烈な風が走り始めました。
波頭の潮は、風に煽られ、時おり竜巻を作りながら、吹き上がります。

しかしそこは、客役は全てアドベンチャーツーリズムの学生、しかも私以外は全艇が安定した大型のダブル艇ということもあり、波と風に押され、時おりサーフィンをしながらのパドリングとなりました。

最悪だったのは、ガイド役の私…。

大型のダブル艇がどんどん進み、一人シングル艇の私が取り残され、先を行く客役が時おりルートを見失う事態に…。

雨も降り始め、客役のストレスと疲労も徐々に増してきたようで、さすがにアドベンチャーガイディングの難しさを痛感しました。

一方で、一生懸命事前に覚えたMarlborogh Soundsの様々な情報や、自然、生態系にまつわるガイディング中の小話は、海が荒れる前後にクライアントに提供することができ、そのあたりは好評をもらいました。


photo:Yoshi

私が担当したガイド中の料理も◎だったようで、このあたりも悪天候時の失態を救ってくれ、どうにか最終試験は、パス。

しかし、Marlborogh Sounds、

美しい景観とその複雑な地形は、自然の怖さも同時に教えてくれました。







2011年9月10日土曜日

TOILET-トイレをきれいに

NZに来る以前、いわゆる公衆トイレが最も清潔な国は日本だと思っていました。
しかし、NZに来てから、これまでの私の常識は覆されました。

photo:Yoshio
 NZのトイレは、とってもビューティフルです。
とにかく清潔です。時々、あまりにもきれいにしてあり、思わず「ビューティフル」とつぶやいてしまうことすらあります。

NZの公衆トイレと言っても、様々なスタイルや管理者が存在します。
しかし主なものとしては、以下の2種類でしょう。

1、街の公園や公共の場に設置してあり、主に市が管理してあるもの。
2、国立公園やアウトドアのフィールドにあり、主にDepartment of Conservation (DOC)が管理しているもの。

どちらのトイレも、とにかくかなり清潔です。
もちろん、一部には古いものも見受けられますが、全体的な清潔さのレベルは明らかに日本以上です。


そして、私がここで特に強調したいのは、上記2の種のトイレ、つまり日本の環境省のような国の組織、DOCが管理するトイレです。


photo:Yoshio
DOCは、NZの環境保護に関わる様々な施策を行っている他、国立公園や国内の各保護区の管理、運営を担当しています。そして、もちろんそうした地域のトイレの管理も行っています。


例えば、何日もかけて歩くトランピング(トレッキング)トラックの森の中や、標高2000m級の山小屋に設置してあるトイレ


photo:Yoshio
周囲を深い森や山で囲まれた小さな砂浜に設置されたトイレ


photo:Yoshio
こうした、全く人気がなく、人工物が見当たらない自然の海岸や砂浜。
そして、険しい太古の森に囲まれた山の中に、
ちょこんと、付近の景観を崩さない程度に、トイレだけは立派に設置されてあります


photo:Yoshio
NZの様々なアウトドアフィールドに細やかに設置されてあるトイレ。
そのほとんどが、ちょっとびっくりするくらい、とてもきれいに保たれているのです。


きれい、清潔、ということですが、もちろんそれは利用者のモラルの高さも理由の一つだと思います。
しかし、もう一つには、やはり管理する側の努力の成果だと思います。


私もこちらに来てからというもの、山、川、海、様々なフィールドに設置されたトイレを利用しましたが、どんなに人里離れた場所にあるトイレでも、まず紙が切れている(なくなっている)状態を見たことがありません


photo:Yoshio
山深い場所にあるトイレなどは、やはり汲み取り式のスタイルのものが多いですが、「何でこんな場所に」と思うような山の中に水洗式が設置されてあったりします。可能な限り清潔で快適なトイレを設置しようという管理者側の意思が感じられます。


このあたりはさすがアウトドア大国のすごさだと感じます。
この国は、アウトドアに何が必要で、何がいらないかをしっかりと理解しているような気がします。


photo:Yoshio
自然に人を招くために、男性だけでなく、大人だけでなく、一人でも多くの人を自然の舞台に招くために何が必要なのか、しっかりと考えていると思います。


トイレを清潔に!


とてもシンプルです。素敵です。
明日から、誰でも真似できることです。


でも国として、膨大なトイレを、ずっと清潔に保つことは、ちょっと難しい。
だから、そんなシンプルなことを、しっかりと制度設計しているNZは、やっぱり気持ちいい。